fkitty2005-10-26

引退する女性初の最高裁判事Sandra Day O'Connerの後任としてブッシュ大統領が指名したHarriet Miers氏*1に対する批判が激しく行われている。ブッシュ大統領の支持層でさえ,指名の取り下げを求めてこんな批判CMを大々的に流しているほど*2最高裁の新しい裁判長John Roberts氏の就任があれよあれよという間に行われたのが先月のことなので,今回は一体何が問題なのか疑問に思い調べてみると…
1 学歴と経歴
 普通の大学,普通のロースクールを卒業している。抜群の成績だったことを伺わせる記述はなし。卒業後テキサスの裁判所のLaw clarkに就任しているので,能力は評価されていたようだが,先月死亡したRehnquist前裁判長のLaw clark*3を勤めたRoberts氏の華麗な学歴と経歴とを比べると見劣りするのは否めず。また,判事経験がなく,弁護士時代にも憲法訴訟の取り扱い経験がないのが致命的らしい。ただ,(1)普通の学歴を持つ(2)女性である*4というハンデを考えると,女性初のダラス弁護士会会長に就任したり,ブッシュ大統領の顧問弁護士を勤め,ホワイトハウス入りしているので,弁護士としては大大大成功といえる。
2 大統領との距離
 弁護士会会長になった頃にブッシュ大統領(当時テキサス州知事)と知り合い,その後大統領の顧問弁護士的役割を果たし,大統領当選と同時に彼女もホワイトハウス入りしている。ブッシュ大統領と知り合う前は,なんと民主党を支持していたようであり,この辺に「成功」の秘訣らしきものが伺える。日本と違い,判事にはそれぞれの支持政党があるのが普通だけれど,ここまでブッシュ大統領と彼女の関係が近すぎると,政治が司法に介入する危険が容易に予想され,1と考え併せて「そんな危険を犯してまでわざわざ彼女を選ぶ必要はない。彼女以上に能力のある人は他に大勢いる。」ということ。

個人的には,彼女の成り上がりっぷりには努力の跡が伺えて好感が持てるので,「やってみなはれ」(by松下幸之助?)と安易に思っていたが,以下のアメリカの事情も考慮しなければならない。アメリカの最高裁判所判事は終身雇用なので,後になって彼女が使えないと判明した場合に殆ど打つ手がないこと。判事経験がないので,判事としての彼女の手腕を評価する術がなく,指名は一種の賭けにならざるを得ないこと。また,最高裁判所の判事の地位は日本のそれに比較できないほど地位が高く,司法界ピラミッドの頂点をなし,一般大衆の耳目もひきつけているが,そんなところに普通の人を持ってくると,そのピラミッドを壊し,ひいては国民の司法に対する信頼がゆらぐおそれがあること。

彼女は,11月7日からSenate Judiciary Committeeという少人数からなる委員会のヒアリングを受け,委員会が彼女の指名にgoサインを出せば,最終決定権を持つSenateの決議が行われる。完璧なRoberts氏でさえ,委員会ヒアリングで結構やりこめられていたので,彼女の委員会は荒れるだろう。私の同僚達は,「彼女は委員会で指名を拒絶される。」という予想をたてているがどうだろう。

[追記]最も反対していたのは,ブッシュ大統領のお膝元保守右派らしく,以上に加え,マイヤーズ氏の「人工妊娠中絶に断固反対する姿勢」が見えないことも理由らしい。宗教上の信条と政治と法律とを混ぜたようなこの手の主張にはいつもついていけない。


 

*1:http://en.wikipedia.org/wiki/Miers#Supreme_Court_nomination

*2:http://betterjustice.com/default.php?page_id=1で実際にCMが視聴できる。

*3:ロースクール卒業後に裁判所で一定期間Law clarkをするのはエリートの証。

*4:この点,彼女の活躍した時代や仕事の場所がテキサスということを考える必要あり。