アメリカの裁判は迅速?

日本ではかなり前から「裁判の迅速化」なるものが叫ばれ,実際にも訴訟の提起から第1審の判決までが約2年で終わることが通常のことになった。「裁判の迅速化に関する法律」なんてのもできた*1。裁判所は2年で事件を終わらせることをかなり重要視するようになり,簡単な事件はそれで全く問題ないまでも,事情が複雑で普通に進めていれば2年では終わりそうもない事件まで2年で終わらせようという意気込み*2を感じさせる裁判官にも結構お会いした。
ところで,日本の裁判の迅速性について述べるときに,比較法的観点から「アメリカでは裁判(trial)は1日で終わるのに日本は云々」というものがあるが,これはかなり誤解を生む言葉なのである。日本は訴訟が提起されると間もなく審理(trial)が始まり,その後終わりまで定期的に法廷が開かれ関係者一同がその都度顔を合わせる。
一方,アメリカでは,といっては話が大きすぎるので,少なくとも連邦裁判所では,訴訟提起−各種申立て(motion)*3−証拠開示(discovery)−審理(trial)−判決と訴訟が進んでいき,法廷に一同が会するのは最後のtrialの部分だけ。確かにこのtrialは1日やそこらで終了し,そこから判決が出るのは早い。しかし,trialまでがものすごーーく長いのである。であるから,訴訟提起から判決までの長さは日本と比べて短いとは言えない気がする。
例えば今日私が読んだ事件は,訴訟提起からそろそろ2年が経とうというのにまだmotionの段階にあり,この先の予定が全く見えてこない。そのmotionも,重要なものに交じって「仕事が忙しいので期日を延ばして下さい」という弁護士からの言語道断なmotionが2回も出されていたり,さらにそのmotionが裁判所に認められていたりするのだから恐れ入る。これでは長くもなる訳だ。もっとも時間単位で弁護士報酬が発生するので,弁護士にとって長くなることは痛くもかゆくもない…どころか,迅速裁判を求めるクライアントと,長くなった方が報酬がアップする弁護士とは本質的に利害が対立する関係にある。勿論,殆どの弁護士はクライアントのために迅速裁判の実現に尽力している…はず。時間単位で働いていた身としてはこのように言わせていただくしかありません。
というわけで,現在の日本の裁判は,↑に比べるとむしろ迅速と言っていい。ただ,事件によって迅速かどうかの基準は異なるはずなので,日本の裁判所はその辺をもう少し柔軟に運用して欲しいと個人的に思う今日この頃。

*1:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15HO107.html

*2:大事な追加主張が許されなかったり,法律的には重要ではなくても当事者にとっては大切な主張がばっさり切られたり…

*3:管轄違いによる却下の申立て等