ロースクールの反骨

fkitty2006-04-04

ロースクールの学生が就職するためには,まず学校を訪問するリクルーターとの第1次面接にうまくもぐり込み,さらにその後法律事務所なりで行われる第2次,第3次…(以下略)面接を次々とクリアしていく必要がある。
そんな中,志願者がゲイであることが分かれば採用しない方針*1を持つ陸軍のリクルーターニューヨーク大学をはじめとする幾つかのロースクールに立ち入りを禁じられ,その対抗策として政府が採ったのが“Solomon Amendment(以下「条項」)″ー軍のリクルーターの立ち入りを認めない教育機関に対して連邦政府からの補助金を減らすというものーだった。政府の目論見どおり当該条項ゆえに寝返るロースクールもあれば,ますます反抗するロースクールもあり,個人的にロースクールが当局への反骨精神を持たずして誰が持つのかと言う気が大いにしているが,昨今はロースクールの資金難が問題になっている時勢でもあるからして,日和見な学校のことはここではとやかく言わない(充分言ってる?)。
当然のことながら,当局に反抗する学校グループが条項が表現の自由を定めた合衆国憲法修正第1条に違反するという憲法訴訟を提起していたが,前月の6日に連邦最高裁判所で原告が敗訴した*2
ここでの問題は何点か挙げられているが,就職時にゲイ差別を行う政府機関に対するロースクールの反対行動→条項での補助金削減が,政府によるロースクール表現の自由に対する制限かどうかという点に尽きる。表現の自由はかなりの反対利益*3が無い限りは制限されない権利で,このケースの場合,反対利益が「陸軍が他のリクルーターと同じく学生に接触できる利益」だからロースクール表現の自由を制限できる程のものとは言い難く,私の日本法の感覚からはこの条項は限りなく違憲に近い。
しかし,判決は合憲と出る。補助金に関する議会の権限*4が絶対的ではないことを前提にしつつ「ロースクールが軍のリクルーターの手助け(リクルーターの来校を告知する等)をすることになってもそれは修正憲法に違反しない。」とか,「ロースクールのとった行動は,国旗を燃やす行動とは異なり,当該行動自体が表現と同視できるようなものではない。」などなどはぐらかされた気分にさせられる。
私が恐れるのは,この論法を使えばロースクールに限らず政府に都合の悪いことを言う機関の補助金を減らすということが簡単にできるのではないかということと,それに関連して,この判決の射程範囲はさほど狭くもなさそうなので色々なところで言論や行動が萎縮させられるのではないか(そういうことを防ぐために表現の自由がかなり強く保障されている。)ということだけれど,軍がからむと時勢的にもこういう方向になるのも仕方ないのか?

判決文を読みたい人はこちらから。http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=us&vol=000&invol=04-1152

[追記]まだ民事訴訟があるさとおっしゃっている人々も存在するらしい。何を請求するのだろうか…精神的苦痛に基づく慰謝料???謎だ。

*1:Don't ask, don' t tellのフレーズで有名 http://en.wikipedia.org/wiki/Don't_ask,_don't_tell

*2:1審敗訴,2審勝訴で最高裁の判断が待たれていた。

*3:例えば公衆の安全や国家の危機存亡

*4:かなり広い