ロースクールの授業の形式で有名なものは,ソクラテスメソッド*1であろう。ソクラテスメソッドの授業中にうまく答えられず泣いてしまったという話はまだかわいいもので,このメソッドによって「自己の意に反して授業中に回答を強制させられた。」ことを理由としてロースクールの学生による損害賠償請求訴訟まで起こっているのである(唖然)。しかし,私にとってはソクラテスよりもつらいものがある。学生をチーム分けし,チームメンバーとの共同作業によってペーパーを仕上げ,5回分のペーパーとチームメイトからの評価のみで成績が決まるLaw Practice Managementの授業がそれである。その名のとおり法律事務所の経営を学ぶ授業なので,チームミーティングの際の議題も畑違いのマーケティング,会計,経営であり法律の話はしない。まだそれでも議題が詳細に決まっていたり,議題についての視覚情報(レジュメ等)が与えられていれば苦労も少ないかもしれない。例えば今取り組んでいるペーパーは,「我が法律事務所*2の統治について」というおよそ漠然としたものであり,チームミーティングにおいては,他の4名のJD学生*3は口々に思いついた勝手なことを言うわ,論点があちこちに飛ぶわで,たとえ議論の内容は分かってもほとんど発言できないことと議事進行が腹が立つほど非効率なこととに憤慨して相当ストレスがたまっている。

チームミーティング終了後,日本人の同級生に対し,怒涛の勢いで↑の状況について愚痴をこぼしていたら,彼は,「そういう授業内容であることを知って授業を履修したということは,今の苦労をあなたが望んでいたということですよ。もしそんなミーティングを楽々こなせるとしたら今頃ここにはいませんよ。」と慰めてくれた。さすがにLLM最年長者の言葉だけあって説得力に富み,あっさりと納得してしまう。明日もまたミーティングがあるが,チームメンバーの中で実際の法律事務所の経営を見知っているのは自分だけという自負心をもって,メンバーにあまり気を遣わずに発言しよう,いや発言できれば嬉しい(やや弱気)。メンバー同士の評価が成績の一部に組み込まれるということのみへの対策としては,むしろ彼らにバレンタインデーのチョコレートその他の賄賂でも贈った方が効果的なのだろうか。

なお,チームミーティングはMBA(経営学修士)プログラムでは普通に用いられる学習方法であり,最近ロースクールでもこれを授業(正しくは授業外)に取り入れる動きがあるようだが,全体数としてはごく少数である。

*1:判例を教材として,教員と学生(この場合特定の学生である場合が多い。)とが一問一答を繰り返していくもので,法的論理思考力を養う上で効果的とされている。ソクラテスと弟子との間で用いられた方法らしい。考案者はハーバードのラングデル教授。

*2:架空の法律事務所をチームメンバーと共に経営しているという前提がある。

*3:JD学生だけの会話についていくことは,スピードからいって日本人には厄介である。また,学生は教授に比べて比較的砕けた表現を遣い,教授がおらず複数人になった場では砕け度がヒートアップしている気もするのでさらに厄介である。