「私はCasey Snyder。テキサス州のとある大学で学ぶ傍らスケートリンクでバイトをしています。雇い主のBlizardさんが殺人事件の被告人になったことを聞いてびっくりしましたが,今日は知っていることをできる限りお話しします…云々」
全国規模のTrial Competition(模擬裁判コンペとでも訳せばよいのか。)の南部地区予選がわがロースクールで3日間かけて行われることになり,証人役やら廷吏役やらを大募集していたため,アメリカ人でないことを告げた上で試しに応募してみたら,証人(アメリカ人女性)役が割り振られてしまった。いずれにせよ,どんな役でも,模擬裁判の経験はいい勉強になる。自分が今後関わらないことが予想される分野の役は特に。修習時代には,裁判官として徹夜で判決文を書いたり,被告人代理人弁護士として異議を出しまくって訴訟の進行を妨げて注意を受けたり,証人として相手方弁護士からいじめられたりしたのもいい思い出である。
さて,今回は,単に模擬裁判をするだけではなく,トーナメント方式で勝者を決定するというシステムになっているらしい。アメリカのロースクールでは,トライアルコンペだけではなく,「クライアントカウンセリングコンペ」やら「ネゴシエーションコンペ」やらが頻繁に行われているが*1これは,アメリカ人の競争を好む国民性とコンペでいい成績を残したらいい就職に繋がるという打算とによるものである。クライアントカウンセリングなんて競争のしようがないだろうに。
驚いたことに,味方の弁護士役(本日初対面)との打ち合わせ時間はたったの15分である。勿論主尋問に備えておおまかな答えが載ったペーパーを読み暗記しているが,弁護士と証人役の打ち合わせの肝は,訴訟戦略と反対尋問にどう対抗するかを検討(指導?)することであると思っているので,15分間の打ち合わせとは事実上ないに等しいものである。私達の場合,「証人が英語を聞き取れなかった場合,弁護士がきちんとヘルプする。」ことが戦略といえば戦略だったような気がする。弁護士役は,キューティブロンド*2の主人公のようなかなりチャーミングな女性だが,突然アメリカ人の証人役として私が現れたものだから,動揺を隠し切れない。彼女の超シリアスな顔を見ているうちに,もし私が反対の立場だったら,つまり修習時代に,証人と15分しか打ち合わせる時間がなくて,そこに現れた証人が日本人の役なのになぜかカタコト日本語を操るアメリカ人だったらパニックになってもおかしくないなどと考えているうちに,失礼ながら笑いそうになった。しかもこのキューティブロンド嬢には前述のとおり就職もかかっている*3。私が割合しっかりと事前準備をしていたせいかどうかは不明だが,キューティブロンド嬢との間の主尋問は問題なく終わった。しかし,打ち合わせをすることは不可能な相手方弁護士からの反対尋問のころには,私の集中力も切れ,Did youから始まる簡単な質問でさえ聞き取れず,リスニング能力の限界をつくづく感じた。台本にない尋問をされることもあってか,終わったころにはふらふらであった。
ところで,外国の法廷物の映画やドラマを見ていて,弁護士がしゃべりすぎるなと感じることが多いが,今日の模擬裁判に出席したおかげで,映画やドラマがそれほど誤っているわけではないことが判明した。

*1:http://www.abanet.org/lsd/competitions/

*2:http://www.foxjapan.com/movies/cutieblonde/index.html

*3:なお,このキューティブロンド嬢はなかなかやり手の弁護士であった。裁判官ににじり寄りつつ状況に応じて声色を変えて弁論する点などは学生ながら見習うべきものがあると感じた。